農業のまち

奈良盆地の中央に位置し、夏は暑く冬は寒い典型的な盆地型気候の田原本。 豊かな土壌に恵まれ、農業は主要な地域産業となっています。 弥生時代の集落遺跡(唐古・鍵遺跡)からも分かるように、約2000年前から行われていた米作りを中心に、なす、ほうれんそうやイチゴ、大和の伝統野菜に認定された「味間いも」や、花卉(かき)、イチジクの栽培なども行われています。 町では様々な就農希望者の支援を行っており、若い新規就農者も増えています。 田原本の農業に新風を吹き込む、情熱的な生産者をご紹介します。

メロンとスイカに特化した専門種苗会社。一部メロンの生産・販売も手掛けています。 中でも「肥後グリーン」は国内有数のメロン産地・熊本を代表するブランドに成長しています。 その「肥後グリーン」に改良を加え、高級なイメージをより身近にしたい、と近畿大学農学部との産学連携で誕生したのが「バンビーナ」。 糖度16度以上の濃厚な甘さと香りに、重量は1玉2kg超・市場価格は2,500~3,000円(税別)の本格メロンにして病害虫に強い特性も持ちます。 糖度を計測して出荷するため味に当たり外れも無く、地元の直売所と公式サイトでのみ販売中です。 栽培には経験や勘を排除し、自動給液にAIロボットを導入するなどICT(情報通信技術)を活用。 新たな農業のあり方を提案し、新規就農者に道を拓きたい、農業を持続可能な産業へ確立する先導役になりたい、と意気込みます。

脱サラ後に農業大学校を経て新規就農し、古都華づくりとその販路拡大に専念してきた青木さん。 ようやく借りた畑を鍬1本で耕すことからスタートし、栽培を軌道に乗せるまでは試行錯誤の連続でした。 今や百貨店、カフェをはじめ、青木さんのいちごは指名買いされるまでに。 「奈良のいちごやさん」のブランディングにも成功し、直売店やふるさと納税の返礼品としても出品しています。 県内では希少な土耕栽培から高設栽培も手掛け、2020年3月からは同県内の広陵町でいちご狩りも始めました。 同年には県の認定新規就農者から認定農業者となり、名実ともに農家となります。 2022年には法人化を予定。苦労した自らの経験を活かし、次代を担う新規就農者の支援や、 世界市場にも挑戦していきます。

両親から引き継いだ農地の活用方法を検討していた時、奈良県の担当者から勧められたイチゴ栽培。 銀行員だった上田さんの大きな転換点となりました。 美味しくなければお客様のリピートも無い、と地元・田原本でイチゴ作りに取り組み3年目。 夫のまさかの就農を理解してくれた夫人と二人三脚で、栽培と経営を苦心の末軌道に乗せました。 上田さんのイチゴは道の駅や、市場を通じて大阪の百貨店や海外でも販売されています。 生産規模の拡大に取り組みながら、従業員を増やし教育にも注力しています。 いちご栽培に情熱を注ぎ、地元で人材を育成していく。それが地元への貢献になれば、と笑顔で語ります。

花き栽培や寄せ植え講師の傍ら、味間いもを広めようと奈良県に働きかけ、2014年に「大和の伝統野菜」認定を受けました。 2016年には生産農家の女性加工グループを立ち上げ、「この年でやるんやから、ようやるやろ。」との思いから「ようやるでおばちゃんの会」に。 味間いもの美味しさを知って欲しい、地元の農業を盛り上げたい、その一心で商品開発や販路開拓を行ってきました。 芋の特徴を活かし幅広い世代が楽しめるものを、と開発に1年をかけた「味間いもコロッケ」は「平成30(2018)年度優良ふるさと食品中央コンクール」で農林水産省食料産業局長賞を受賞。添加物を一切使わない家庭の味は、近隣のスーパーや道の駅等で販売中です。

勤務先の製薬会社が農業事業に参入し、業務として関わったのが福田さんと農業との出合いでした。 全国の農家を周るうち、自らも農業に従事したいと思うように。 中でも奈良県のリーディング品目で幅広い世代に愛され、自分次第で新たな価値を生み出せるいちごに着目。自分はいちごで生きていく、と覚悟を決めました。 先輩農家に師事しながら栽培を学び、自作のビニールハウスで育苗するなどの準備期間を経て2012年に脱サラ。その後経営を軌道に乗せるまでに3年を要しました。 2020年からは農地内に直売所を開設。朝採りの「古都華」や町内では希少な「天使の苺」が店頭に並びます。 2024年には屋号である「ハッピーイチゴランド」の実現を視野に、いちご狩りやカフェ、スイーツなどいちごの複合施設を町内に開業予定です。

田原本町多地区は、奈良時代の条里制の残る農地に、自然豊かな農村景観を持つ美しい集落です。一方で近年の都市化により農家数は減少、高齢の単身世帯も増加。農村資源継承への危機感から、農家だけでなく地域全体を包含する集落営農組織設立の気運が高まり、2004年に多集落営農組合(2014年 農事組合法人化)が設立されました。
基幹作物の小麦や米の二毛作、新規需要米(飼料用・米粉用など)の栽培、稲の育苗や稲刈の請負などの収益化を進めています。 同時に、自治会婦人部や周辺自治会4集落とともに、農村文化の継承や新たな魅力の発掘による地域活性化を目的に「美しい多地区の田園風景を楽しむ会」を2014年に結成。
米作り体験や田んぼの生き物観察会を開催しています。

さらに、2016年より営農女性部や自治会婦人部を中心に6次産業化に取り組み、小麦や米粉、いちごなど地域農産物の商品開発にも挑戦。古事記編纂者で多地区出身の太安萬侶にちなんだ「やすまろ」ブランドの米やうどん、煎餅やクッキーなども商品化し、地元道の駅で直売。地域の雇用創出も図っています。 今後も商品開発や販路開拓、農村交流活動や伝統文化の継承を両輪に、魅力ある農村づくりに邁進していきます。 


スイカとメロンに特化し、種子や苗を生産者向けに販売している種苗会社。 中でもスイカの種は、熊本をはじめとする一大産地を中心に、北は北海道から南は沖縄まで全国へ販売しており、約7割と圧倒的なシェアを誇ります。 品種改良には、まず味や食感、見た目に育てやすさなど、特性を持つ親スイカを年間数百種作ります。 さらに改良の目的に適う相性の良い親を探し当て、掛け合わせを繰り返すなど、時間と労力が必要です。実に新品種の発表まで10年を要します。

こうして業界のトップを走り続けているのは、変化する市場のニーズに応え続けてきたから、と話すのは専務の萩原斗志弘さん。 「30年位前までは大玉が主流でしたが、核家族化で小玉のスイカが好まれるようになりました。さらに現在はスーパーをはじめ売場ではカット販売が主流です。そこで、カットしても崩れにくく空洞の無い、色のきれいな果肉のスイカが求められるようになりました。 産地の気候や環境変化に対応し、生産者がどの地域でも安定して生産でき、ハズレの無いことが一番重要です。」

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